源泉徴収しなくてよい場合とは?個人事業主が知るべきケースを徹底解説

個人事業主として活動していると、「源泉徴収」という言葉を耳にする機会は多いでしょう。しかし、報酬を受け取る際に「源泉徴収します」と言われたり、逆に何も引かれずに振り込まれたり、その違いがよく分からず不安に感じている方もいるのではないでしょうか。源泉徴収は所得税の納税に関わる重要な制度ですが、その仕組みは少し複雑です。

この記事では、個人事業主やフリーランスの方々が「源泉徴収しなくてよい場合」はどのようなケースなのか、基本的な仕組みから具体的な例まで、分かりやすく解説していきます。正しい知識を身につけ、税務に関する不安を解消しましょう。

源泉徴収とは?基本の仕組みをわかりやすく解説

まずはじめに、源泉徴収制度の基本的な考え方についておさらいしましょう。この仕組みを理解することが、不要なケースを判断するための第一歩となります。

源泉徴収制度の概要

源泉徴収とは、給与や報酬などを支払う側(支払者)が、その金額からあらかじめ所得税を差し引き、受け取る側(受給者)に代わって国に納税する制度のことです。本来、所得税は1年間の所得を個人が自ら計算して申告・納税する「申告納税制度」が原則です。しかし、特定の所得については、支払者が税金を天引きして納めることで、効率的な徴収と受給者の納税手続きの負担軽減を図っています。会社員の方が給与から所得税を天引きされるのが、最も身近な例と言えるでしょう。

参考:国税庁「第1源泉徴収制度について」

参考:国税庁「申告と納税」

源泉徴収義務者とは誰のことか

源泉徴収を行い、国に税金を納める義務がある者を「源泉徴収義務者」と呼びます。会社や団体はもちろんのこと、個人事業主であっても従業員を雇用して給与を支払っている場合は、源泉徴収義務者となります。一方で、従業員を一人も雇っておらず、給与の支払いがない個人事業主は、原則として源泉徴収義務者にはなりません。この「誰が支払うか」という点が、源泉徴収が不要になるかどうかの重要なポイントの一つです。

支払者の状況源泉徴収義務
会社、団体あり
従業員を雇用している個人事業主あり
従業員を雇用していない個人事業主原則なし

参考:国税庁「No.2502源泉徴収義務者とは」

参考:国税庁「新たに源泉徴収義務者になられた方へ」

個人事業主が源泉徴収される主な報酬

すべての報酬が源泉徴収の対象となるわけではありません。所得税法で定められた特定の報酬・料金を支払う場合にのみ、源泉徴収が必要となります。ここでは、個人事業主が受け取ることが多い、源泉徴収の対象となる代表的な報酬を見ていきましょう。

参考:国税庁「No.2792源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」

参考:国税庁「第5報酬・料金等の源泉徴収事務」

【関連記事】フリーランスが収入証明に使える書類は?必要となる場面や気になる疑問を解説|投稿|フリーランスエンジニアの求人、案件サイト-Relance

原稿料やデザイン料などの報酬

フリーランスのライターやデザイナー、イラストレーターなどが受け取る報酬は、源泉徴収の対象として最も代表的なものです。具体的には、以下のような報酬が該当します。

  • 原稿料、挿絵の報酬
  • デザイン料(Webデザイン、グラフィックデザインなど)
  • 写真の報酬
  • 作曲料
  • 講演料、放送謝金
  • 翻訳料、通訳料

これらの業務は専門的な知識やスキルを提供する対価として支払われるため、源泉徴収の対象範囲に含まれています。

参考:国税庁「No.2795原稿料や講演料等を支払ったとき」

参考:国税庁「「区分」欄」

弁護士や税理士など特定の資格者への報酬

弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、社会保険労務士といった、特定の国家資格を持つ専門家へ支払う報酬も源泉徴収の対象となります。ただし、同じ士業でも行政書士への報酬は、所得税法に定めがないため源泉徴収の対象外です。このように、資格の種類によって扱いが異なる点には注意が必要です。

参考:国税庁「No.2798弁護士や税理士等に支払う報酬・料金」

参考:国税庁「行政書士に報酬を支払った場合」

芸能やプロスポーツ選手への報酬

テレビ出演料やモデルへの報酬、プロ野球選手やプロサッカー選手への報酬・契約金なども源泉徴収の対象です。これらの報酬は、個人の持つ特殊な技能や人気に対して支払われる対価として、法律で定められています。

参考:国税庁「No.2792源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」

参考:国税庁「第4報酬・料金等の源泉徴収事務」

源泉徴収しなくてよい場合の具体的な3つのケース

では、本題である「源泉徴収をしなくてよい場合」について、具体的なケースを見ていきましょう。主に、支払側の状況と、業務内容によって判断されます。

ケース源泉徴収が不要になる理由具体例
報酬の支払者が源泉徴収義務者でない支払者が源泉徴収義務者ではないため従業員のいないフリーランスからデザイン料を受け取った
源泉徴収の対象外の業務への支払い業務内容が源泉徴収の対象ではないため法人からシステム開発の報酬を受け取った
少額の懸賞金や賞金少額のため例外的に不要となるコンテストで3万円の賞金を受け取った

ケース1:報酬の支払者が源泉徴収義務者でない

最も多いのがこのケースです。前述の通り、源泉徴収は「源泉徴収義務者」が行うものです。したがって、報酬の支払者が源泉徴収義務者でなければ、源泉徴収は行われません。

具体的には、従業員を雇用していない個人事業主や、給与の支払いがない一般の個人(例:確定申告のために税理士に報酬を支払うサラリーマンなど)から報酬を受け取る場合は、源泉徴収の対象となる業務であっても、所得税は天引きされません。

参考:国税庁「No.2502源泉徴収義務者とは」

参考:国税庁「No.2793報酬・料金等の源泉徴収義務者」

ケース2:源泉徴収の対象外の業務への支払い

個人事業主の仕事であっても、所得税法で定められた源泉徴収の対象業務に該当しない場合は、源泉徴収は不要です。例えば、Webサイトのコーディングやプログラミング、システム開発といったITエンジニアの業務に対する報酬は、一般的に源泉徴収の対象とはなりません。支払者が法人であっても、これらの業務に対する報酬であれば源泉徴収されずに支払われます。

参考:国税庁「No.2792源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」

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ケース3:少額の懸賞金や賞金

源泉徴収の対象となる報酬の中には、金額によって不要になる例外があります。例えば、懸賞応募作品の入選者などに支払われる賞金や賞品は源泉徴-徴の対象ですが、一人に対して1回に支払う金額が5万円以下であれば、源泉徴収をしなくてもよいとされています。

参考:国税庁「No.2792源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」

参考:国税庁「原稿等の報酬又は料金(第1号関係)」

源泉徴収に関する個人事業主のよくある質問

ここでは、源泉徴収に関して個人事業主の方からよく寄せられる質問にお答えします。実務上の疑問を解消していきましょう。

請求書に源泉徴収税額は記載すべきか

法律上、請求書に源泉徴収税額を記載する義務はありません。しかし、取引先との認識を合わせ、スムーズな経理処理を促すために記載しておくことが推奨されます。報酬額と消費税、源泉徴収税額、そして最終的な請求額を明記することで、入金額の差異に関する問い合わせを防ぐことができます。請求書に記載する場合は、報酬額(税抜)に対して10.21%を乗じた金額を記載するのが一般的です。

参考:e-Gov法令検索「所得税法第六条(源泉徴収義務)」

参考:国税庁「No.2795原稿料や講演料等を支払ったとき」

源泉徴収されなかった場合どうすればよいか

源泉徴収されるべき報酬であるにもかかわらず、支払者側の都合や誤りで源泉徴収されなかった場合でも、納税の義務がなくなるわけではありません。源泉徴収はあくまで所得税の前払いです。源泉徴収されていない所得は、確定申告の際に自ら事業所得などとして申告し、所得税を納付する必要があります。最終的な納税額は確定申告によって決まるため、源泉徴収の有無にかかわらず、年間の所得を正しく計算して申告することが最も重要です。

自分が支払い側になった際の注意点

もしあなたがデザイナーなどに仕事を発注し、報酬を支払う側になった場合、注意が必要です。あなたが従業員を雇用しており源泉徴収義務者であるならば、そのデザイナーへの報酬から源泉徴収を行い、国に納付する義務が発生します。相手からの請求書に源泉徴収税額の記載がなくても、支払う側が判断して徴収しなければなりません。この義務を怠ると、ペナルティが課される可能性があるため、自身が源泉徴収義務者であるかどうかを正しく把握しておくことが大切です。

参考:国税庁「No.2792源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」

参考:国税庁「源泉所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)」

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まとめ

今回は、個人事業主が源泉徴収をしなくてよい場合を中心に解説しました。重要なポイントは、「誰が支払うか(支払者が源泉徴収義務者か)」と「何の対価か(報酬が源泉徴収の対象か)」の2点です。

この仕組みを理解することで、報酬の受け取りや請求書作成の際に、自信を持って対応できるようになります。

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