駆け出しエンジニアとして「スキル」と同じくらい大切なこと
2025年5月16日
目次
はじめに
はじめまして、フリーランスエンジニアの鈴木と申します。現在は京都大学農学部に在学しながら、主にフロントエンドエンジニアとして活動しています。
これまでに、大学の研究室での開発、大手企業からスタートアップ、デジタル庁の案件、さらには会社設立前のプロジェクトまで、インターンシップを中心に様々な現場を経験させていただきました。
大きな実績を残したというよりは、未熟ながらも多様な環境で試行錯誤し、多くの失敗から学ばせていただいた、というのが正直なところです。

執筆者:フリーランスエンジニア 鈴木天
京都大学農学部に在学中に研究室でトヨタとの共同研究の一環としてPoC開発にエンジニアとして携わっことをきっかけに、 インターンなどを通じて独学でエンジニアとして活動を始める。
PoCや社内ツールのような小規模なフルスタック開発、既存システムの機能追加といった業務を行なっている。学生ながら生活費の大半をAIに注ぎ込んでおり、AIの利活用に関する知見には自信がある。
近年、大規模言語モデル(LLM)をはじめとするAI技術が急速に社会に浸透し、エンジニアの業務も着実に変化しています。従来、駆け出しエンジニアに求められていたスキルの一部は、AIによって代替可能になりつつあります。
このような状況だからこそ、経験の浅い駆け出しエンジニアが最初の一歩を踏み出すためには、単なる技術スキルとは別の視点も重要になってくると感じています。本記事では、私の経験を踏まえ、これからの時代に駆け出しエンジニアが意識すべきこと、そして大切にすべきマインドセットについてお伝えします。
「スキル」よりも「熱量」
エンジニアには、プログラミング言語やフレームワークはもちろん、コンテナ技術、バージョン管理、クラウド、セキュリティなど、幅広い知識とスキルが求められます。しかし、これら全てを最初から完璧に備えているエンジニアはほとんどいません。
案件に参画する際、募集要件を満たしていたとしても、その業界特有の知識や業務フロー、チームで使われている最新技術などをキャッチアップする必要は必ず出てきます。また、フリーランスとして活動する以上、将来的には異なる技術スタックの案件に挑戦することもあるでしょう。つまり、エンジニアにとって「学び続けること」は宿命とも言えます。
この前提を踏まえると、特に駆け出しの段階では「どのようなスキルを持っているか」以上に「どのようにスキルを獲得できるか(=学び、成長し続けられるか)」が重要視される傾向にあると感じています。AIはコーディングのような「What(何ができるか)」の面では強力なツールです。しかし、プロジェクト固有の文脈(コンテキスト)を深く理解し、技術を「How(どう適切に使うか)」、そして「Why(なぜそれが必要なのか)」を考えて実装に落とし込むのは、今のところ人間にしかできません。
面接や商談の場では、つい自分のスキルセットを詳細に語りたくなります。応募する案件に対して十分なスキルがある場合は有効ですが、求められるレベルに自身のスキルが達していないと感じる場合、スキル不足を懸念されるかもしれません。
そのような場面では、「これだけのスキルがあります」と語るだけでなく、「これだけの熱意があり、その根拠としてこれだけのスキルを習得してきました」と伝える方が、ポテンシャルを感じてもらいやすいのではないでしょうか。つまり、現在のスキルを「学ぶ姿勢」や「成長意欲」の根拠として提示するのです。
些細な違いに聞こえるかもしれませんが、駆け出しの段階では、完成されたスキルよりも、未知の課題に対する学習意欲や、プロジェクトへの貢献意欲といった「熱量」、すなわち将来性が評価されることが多いように感じます。
【注意点】ただし、「熱量」を履き違えないこと
ここで強調しておきたいのは、これは「熱意があればスキル不足でも何とかなる」という無責任な考えを推奨するものではない、ということです。フリーランスとして請け負う仕事は、自己成長の機会である以前に、クライアントに対する責任です。熱意をアピールして案件を獲得したとしても、その後の業務遂行能力が伴わなければ、信頼を失うだけです。
ここで言う「熱量」とは、スキルレベルが同程度の他のジュニアエンジニアと比較された際に、「この人なら責任感を持って、主体的に学びながら貢献してくれそうだ」と信頼を得るためのマインドセットに近いものです。
「熱量」と同じくらい大切な「コミュニケーション」:マネジメントコストを意識する

案件を獲得し、プロジェクトに参画した後、特に重要になるのがコミュニケーション能力です。これは、単に「話すのが得意」ということではありません。フリーランスとして働く上で意識したいのは、「マネジメントコスト」という視点です。
どんなに優秀なエンジニアでも、新しいプロジェクトに参加すれば、そのプロジェクト特有の状況、コードベース、チームの文化などを理解するために、周囲の助けが必要になります。質問したり、レビューを依頼したり、進捗を報告したりと、チームメンバーとの連携は不可欠です。
エンジニアに限らず、チームメンバーとしての価値は、単純な「報酬あたりの仕事量」だけでは測れません。「(仕事の成果)ー(その人を管理するためにかかるコスト)」で評価される、と言っても過言ではないでしょう。つまり、質の高いアウトプットを出すことはもちろん、自分自身の管理にかかる手間(マネジメントコスト)を、いかに低く抑えるかも非常に重要なのです。
マネジメントコストを低く抑えるといった観点での具体的に意識したい項目は以下の通りです。
1. 即レス
質問や依頼を受けたら、すぐに対応できない場合でも「確認します」「〇時までに回答します」といった一次返信をするだけでも、相手の不安を取り除き、作業の滞りを防げます。
2. 報連相の徹底
タスクを依頼された際は、「何を」「いつまでに」「どのように」進めるのかを自分の言葉で要約し、認識に齟齬がないか確認すると良いかと思います。「〇〇の件、承知しました。△△という認識で、□日までに××の形でアウトプットします」のように具体的に伝えることで、手戻りを防げます。
3. 具体的な質問
質問する際は、「何がわからないのか」「どこまで自分で調べたのか」「相手に何をしてほしいのか(アドバイスが欲しい、レビューしてほしい、判断してほしいなど)」を明確に伝えるのが良いかと思います。状況や試したことを具体的に記述することで、相手は回答しやすくなり、結果的に早く問題が解決できます。
これらのことは、当たり前に聞こえるかもしれません。しかし、納期が迫っていたり、複数のタスクを抱えていたりして余裕がない時ほど、こうした基本的なコミュニケーションが疎かになりがちです。
私自身も、過去に要件の確認が甘かったために認識違いが生じ、大きな手戻りが発生してしまった苦い経験があります。忙しい時ほど、丁寧なコミュニケーションが、結果的に自分自身を助けることになるのです。
作業効率を上げる「計画力」:闇雲に手を動かす前に
コミュニケーションと並んで、作業の質と速度を向上させるために意識したいのが「計画力」です。これは私が大学受験の頃から意識していることですが、エンジニアリングの仕事においても非常に有効だと感じています。
手を動かし始める前に、少し立ち止まって計画を立てることで、結果的に無駄な作業や手戻りを減らし、最短距離でゴールに到達できる可能性が高まります。

具体的には、以下のステップを意識すると良いでしょう。
1. ゴールの明確化 (What / Why)
このタスクで求められている最終的な成果物は何か?
なぜこのタスクが必要なのか?(背景や目的を理解する)
2. タスクの分解 (How)
ゴールを達成するために必要な作業を、できるだけ細かい単位に分解する。
3. 優先順位付け (When)
分解したタスクの依存関係(これをやらないと次へ進めない、など)や、重要度、緊急度を考慮して、取り組む順番を決める。
重要なのは、「闇雲に手を動かす前に、最も効率的で確実な進め方を考える」という戦略的な思考です。もちろん、計画通りに進まないことも多々ありますが、最初にしっかりと計画を立てておくことで、問題が発生した際にも軌道修正がしやすくなります。
終わりに
本記事では、駆け出しのフリーランスエンジニアがスキル以外に大切にすべきこととして、「熱量(学ぶ姿勢・成長意欲)」「コミュニケーション(マネジメントコスト意識)」「計画力」についてお伝えしました。
AIの台頭など、変化の激しい時代ではありますが、これらの普遍的な力は、技術スキルと同じ、あるいはそれ以上にキャリアを支える土台となるはずです。
私自身、経験の浅い立場ではありますが、少しでもこの経験がお役に立てたらと思います。
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